ボタニカルアートでは、背景をあえて描きません。もともと学術的な絵の為です。
画用紙の白をそのまま残す、いわゆる「余白」です。
一見、何もしていないように見えるこの白い空間ですが、実はとても大切な役割を持っています。だからこそ私は、この余白をできるだけドラマチックに見せたいと思っています。
もちろん、余白を広く取ってもフォーカルポイントはずらしません。見る人の視線がどこに向かうのかを意識しながら、余白とのバランスを考えます。そうすることで、絵の中に奥行きや空気感が漂い、時には風や香りまでも感じられるような世界が広がります。余白には、植物の魅力を引き出してくれる力があるのです。

日本には「間を読む」とか「空気を読む」という言葉があります。
また、わびさびのように、静けさや余白の美しさを自然と感じ取る文化があります。そんな感覚が私たちの中にあるからこそ、私はボタニカルアートでも余白にこだわりたいと思っています。
余白には、人の想像力をかき立てる力もあります。
描かれていない部分があると、その先に何があるのかを、見る人の脳が勝手に作り出してくれるのです。
たとえば、マスクをしている人を見ると、私たちはマスクの下の顔をなんとなく想像しています。そして実際にマスクを外した顔を見ると、「思っていた印象と違う」と感じることがよくあります。それくらい、人は見えない部分を想像して補うものなのです。
ボタニカルアートの白い余白も、まさにそれと同じです。
何も描いていないようでいて、そこには見る人それぞれの想像が広がります。
だから私は、この白い余白をとても大事にしています。
植物の美しさを引き立ててくれる、かけがえのない空間だと思うからです。
ⓒ宮澤 香代子
